John Hyman「芸術の理論における写実主義と相対主義」

http://philpapers.org/rec/HYMRAR
http://www.queens.ox.ac.uk/academics/hyman/files/realism_and_relativism.pdf
Hyman, John (2004). Realism and relativism in the theory of art. Proceedings of the Aristotelian Society 105 (1):25–53.

写実性を自然への類似として理解するような素朴な写実主義観を否定し、グッドマンの「写実性とは私たちが慣れ親しんだ慣習にすぎない」という相対主義も否定しつつ、どちらでもない写実性の定義を探りましょうという論文かな。美術史上の例を豊富にあげている。
しかしなんでこの論文Schier[1986]とかLopes[1995]とかに言及しないんだろう。
参照される哲学の先行研究がほぼネルソン・グッドマンとE.H.ゴンブリッジだけなんだけど、ひょっとしてあれか。daisenseiってやつか。そう思って読むと、大先生の風格を感じさせる文章だったが。


ともあれまとめると、Hyman説では写実性には3つの要素がある。

  • 1. 正確性[accuracy]

マテリアル、対象、行動を正確に描くこと。
例えば解剖学的な正しさや人の姿勢の正しさ。
昔の人の絵だと、走ってるときに右手と右足が一緒に出ているように描かれている。

  • 2. 活発さ[animation]

動きを感情や性格の表現と結びつけるもの。表情や動きが生き生きしているかということ。Hymanはここで痛みの表情を描いたB.C.500の絵を紹介している。

  • 3. 様相性[modality]

これが一番重要らしい。
様相性とは、図像の内容について質問できる範囲のこと。「この男は怒っているのか?」「 セム人か? エジプト人か?」「この服はリネンなのかウールなのか?」
こういう質問が意味をなさないような絵もある。表現できることが増えるにつれて質問できる範囲も増える。例えば多様な表情の表現が可能になると、無表情な人について「この人は何を感じているのか?」と問うことができるようになる。
絵画が目指す共通のゴールというものはないが、ある時代に急速に表現の幅が広がって様相性が拡大するということは考えられる。


AbellはHymanの立場をSchierやLopesと同じ情報説に分類しているが、ちょっと微妙な気もする。Abellは様相性を「図像が質問に対する答えを与える範囲」と理解しているが、答えを与えるかどうかではなく、質問が意味をなすかどうかということなので。ただ質問が意味をなすためには答えを与えうるのでなければならないと考えれば問題ないかもしれない。