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Amie Thomasson『フィクションと形而上学』のキャラクター同一性の基準

五章のキャラクターの同一性基準の話をまとめておく。
ここではキャラクターの同一性に加え、めずらしく間テキスト的なキャラクターの同一性が議論されている。パロディや二次創作におけるキャラクターの同一性も問題になっている。
Fiction and Metaphysics (Cambridge Studies in Philosophy)Amie Thomasson, Fiction and Metaphysics


五章「フィクショナルキャラクターの同一性基準」

  • マイノング的同一性基準の困難
  • ひとつの文学作品の中での同一性基準
  • 文学作品間の同一性基準


Thomassonがライバル視するのは、マイノング主義の理論だ。そこでは、キャラクターは作中でキャラクターに帰属される性質の集まりと見なされ、二つのキャラクターが同一であるのは、二つのキャラクターが同じ性質だけを持つときである。
この考えでは、例えばシャーロック・ホームズというキャラクターは「ベーカー街に住んでいる」「探偵である」などの性質の集まりと見なされる。


しかし、これには問題があって、複数の作品に登場するキャラクターをどうするか。ホームズシリーズのような続き物もあれば、パロディや二次創作もある。また、コナン・ドイルは、ホームズを他のように書くこともありえたわけだが、性質の同一性を厳密にとると、可能なホームズと現実のホームズの同一性は一切なくなる。


Thomassonは難しいケースとして以下の例を挙げている。

  • A. リチャードソンの『パメラ』に登場する女中のパメラ
  • B. リチャードソンのことをまったく知らない学生が書いた小説に出てくる「パメラ」という女中。偶然パメラに似ている。
  • C. フィールディングの『パメラ』のパロディである『シャミラ』に出てくるパメラ。

この際、AとCは同じキャラクターであるが、Bはそうではない。Bは偶然パメラに似ているだけだからだ。
キャラクターの同一性を性質の集まりで捉える立場は、A、B、Cをうまく分類できない。


一応性質による同一性の改良案として以下の二つが検討される。

最小説
すべての作品に共通する性質の集まりによって、キャラクターの同一性を定める。
最大説
当のキャラクターが登場するすべての作品におけるすべての性質の集まりによって、キャラクターの同一性を定める。

しかしどちらもうまくいかない。最小説では、パメラの本質的な性質とは何かという問題に答えなければならない。また、この立場だと、Bのような偶然似ているキャラクターもパメラと同一であることになってしまう。
一方最大説を取ると、一連の作品シリーズ全体をひとつの作品のように見なした上で、キャラクターはそこで帰属されたすべての性質を持つことになる。
この立場の問題点は、どうしてもシリーズの定義が必要になることだ。続き物の作品を書くためには、制作者が前の作品を見知っており、その作品の続きを書くことを意図したのでなければならない。
しかしこの立場はThomassonにかなり近い。どうせなら、続き物の定義ではなく、キャラクターの同一性に、意図や歴史性の要素を入れてもいいだろう。


Thomasson自身は以下のような立場をとる。ここでは、フィクショナルキャラクターは抽象的人工物であるというThomassonの立場が前提になっている。
参考: Amie Thomasson「フィクショナルキャラクターを語ること」 - うつし世はゆめ / 夜のゆめもゆめ


キャラクターの作品内での同一性の十分条件

  • 1. xとyは同じ文学作品のなかに現れる。
  • 2. xとyは作品の中で正確に同じ性質を付与される。


この際、Thomassonはテキスト、制作物、作品を区別している。
作品として同一であるためには、

テキストとして同一である
同じ文字列からなる。
制作物として同一である
同じ制作者の同じ制作行為によって制作される。

にくわえ、同じ言語の知識や背景知識を持った人々に受容されることが必要とされる。


一方、作品Kのxと作品Lのyというキャラクターの間に、作品間で同一性が成り立つための必要条件は以下の通り。
作品Lの著者は、作品Kのキャラクターxを見知っており、xを作品Lのキャラクターyとして輸入することを意図する。


これはあくまで必要条件であり、十分条件ではない。「輸入」は失敗することがある。例えば、シャーロック・ホームズというキャラクターを知っていて、シャーロック・ホームズを輸入しようと意図し、犬や車にシャーロック・ホームズと名付けても、同じキャラクターとは言えない。
(ホームズが犬になっているアニメの名探偵ホームズとかどうなのかなと思ったが、多分Thomassonはそんなことは知らない)。
輸入が成功するかどうかの基準はかなり曖昧なものである。Thomassonはその辺りははっきりさせていない。