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[fiction] Manuel Vargas「デッド・シリアス: 不死者の悪と存在論」

ハロウィンなのでこの論文集を読む。ゾンビとバンパイアに関する哲学論文集。
とりあえず一つ読んだ。


Zombies, Vampires, and Philosophy: New Life for the Undead (Popular Culture and Philosophy)Zombies, Vampires, and Philosophy: New Life for the Undead (Popular Culture and Philosophy)

http://philpapers.org/rec/VARDSE
http://www.usfca.edu/fac-staff/mrvargas/Papers/EvilandUndead.pdf
Vargas, Manuel (2006). Dead Serious: Evil and the Ontology of the Undead. In Richard Greene & K. Silem Mohammed (eds.), The Undead and Philosophy. Open Court.


タイトルはdead serious(大まじめ)と、不死者を真剣に考えることのかけ言葉だと思う。

  • 1. 不死者に関するいくつかのパズル
  • 2. 不死者についての概念的真理
  • 3. 不死者の種類
  • 4. 悪の接触
  • 5. 悪と不死者
  • 6. 安らかに眠る


不死者(アンデッド)とは、かつては生きていたが、一度死んでから舞い戻ったものである。ゾンビとバンパイアがこの代表例にあたる。
前半では、不死者の分類が試みられる。不死者には、超自然的な起源を持つもの、人工的な起源を持つもの、自然の力によって生まれたものがいる。著者も指摘しているように昔はゾンビと言えば呪いや魔法で生まれたものだが、最近の映画ではゾンビはわりとウィルスやバイオハザードによって誕生しがちである。なお、著者は、仮死状態に入るウィルスやウイノイドや昆虫も不死者の仲間に入れている。クマムシとかもアンデッドかもしれない。


おもしろかったのは、後半の不死者は邪悪ではないという議論だ。ここでの「邪悪」の意味はかなり限定される。それは、単なる道徳的不正ではなく、映画に登場するような純粋悪である。この意味での純粋悪であるためには、人に害をなしたいという欲求それ自体を目的として持たなければならない。
例えば、ロードオブザリングのサウロンが人間やエルフやホビットに害をなすのは、オークやトロルの利益のためだとしよう。この時サウロンは道徳的に不正ではあるかもしれないが、邪悪ではない。サウロンが害をなすのは、手段に過ぎないからだ。
一方、ハンニバル・レクターはこの意味で邪悪であるかもしれない。


著者によれば、ゾンビは邪悪ではない。そもそも多くのゾンビにはほとんど知能がなく、ゾンビが動機を持つことができるかよくわからない。また、ゾンビに「新鮮な脳を食べたい」という欲求を帰属できるとしても、それは本能にすぎない。この場合ゾンビはウィルスや自然災害のような害ではあるが、道徳的に悪いわけではない。


著者の言っていることとは離れるが、この議論はかなり広く適用できるように思う。
以下は、私が考えた「邪悪な種族は存在しない」論証。いや、昔から映画とかに出てくる「本性的に邪悪な種族」ってなんか不思議だなと思っていたので……。

論証: 邪悪な種族は存在しない

例えば、オークはオークであるかぎり、人に害をなしたいと思うのだとしよう。しかし、もしオークであるかぎりにおいて人に害をなしたいという欲求を持つのであれば、この欲求はオークの意志によって生まれたものではない。オークにはそもそも選択の余地がない。
また、仮にオークにはこの欲求を克服することもできるとしよう。しかし、この場合もオークは邪悪ではない。たまたま生まれた種族がオークであったために、人に害をなしたいという欲求を持ってしまい、その克服に精神的努力を求められる。これは、道徳的ハンディキャップではあっても、純粋な邪悪ではない。
ここでもし、オークが邪悪だと考えるならば、われわれは「意志によって生じたのではない道徳的邪悪」が存在しうると認めることになる。しかしそれはそもそも思考可能だろうか。それはいわば、自然な道徳的悪があると言うようなものである。四つの角がない四角を想像できないように、私たちはそれを想像できないのではないか。
もし意志によらない邪悪が存在しえないとすれば、オークがオークであるかぎりにおいて邪悪であるということはない。オークは害をなす種族であっても、本性的に悪であるような種族ではない。
以上はもちろんオーク以外にも当てはまるから、本性的に悪であるような種族は存在しないだろう。
(この論証の大きな穴は「超自然的な力によって生じた道徳的邪悪はあるかもしれない」というところだ。そこについては正直どう考えてよいのかよくわからないし、長くなるので割愛する)


まあとにかく私も不死者は邪悪ではないという著者の意見に賛同したいと思う。ゾンビは誤解されてきているのだ。
……ここで、もしホラー映画なら、「ゾンビは邪悪ではない」と言いながら、ゾンビに頭から食べられていくといい感じのオチがつくと思う。