Catharine Abell「慎重な類似説」

http://philpapers.org/rec/ABECR
Abell, Catharine (2009). Canny resemblance. Philosophical Review 118 (2):183-223.

  • はじめに
  • 1. やるべきこと
  • 2. 類似説の難しさ
  • 3. 既存の類似説
    • 3.1. 非存在対象の描写
    • 3.2. 多様性と独立性
    • 3.3. 意図の役割
  • 4. 意図に基づく類似
  • 5. 慎重な類似説: 完全な説明
  • 6. 慎重な類似説の説明能力

類似説は、絵や写真がどのようにして対象を描写するかに関するもっとも素朴な説である。この説によれば、図像は対象に類似することで対象を表象する(有名なところではパースによる記号の定義)。分析美学の世界では、グッドマンが徹底的に批判したため、この説はなかなか復活しなかったが、現在はある程度支持者もいる。
このAbellの論文は2009年に発表されたいわば類似説の最新バージョンである。Catharine Abellは、どの論文もおもしろいので、個人的にはかなり注目している。


AbellはLopesの議論を引いて、類似説がなぜ難しいか説明している(もちろんこれ以外にも、よく知られたグッドマンによる批判には当然答えなければならない)。
類似説は以下の二つの要求に同時に答えなければならない。

多様性
通常の線遠近法的な絵画にくわえ、キュビズムなどの近代的な技法や、様々なエスニックアートなど、多様な絵画を説明できなければならない。
独立性
類似説は、図像の内容に関する知識なしに解釈者がアクセスできる類似だけに訴えねばならない。

これがなぜ難しいかというと、前者の多様性の要求を満たすには、絵画が多様な仕方で対象に類似することを認めなければいけないからだ。例えば線遠近法は形の類似で表象するが、印象派では色の類似が用いられる。しかし、類似の仕方が無数にあるとすれば、なぜ私たちは絵画の理解に先立って、関連する類似の仕方を特定できるのか。絵画が対象に類似しているとわかるのは、むしろ絵画の描く内容を把握してからではないのか。
Abellによれば、既存の類似説はどれもこの二つの要請を満たすことができない。


一方Abell自身の説は図像が多様な仕方で対象に類似することを認めつつ、類似の仕方を特定するために、一般的なコミュニケーションの能力に訴える。Abellはグライスに依拠しつつ、私たちには、コミュニケーション的行動と、その産物から他人の意図を理解する能力があることを説明する。例えば、言語やジェスチャーを通じて多様な含意を伝えることができる。しかも、コミュニケーションは、意図を認知させることを意図するという二重の意図を含む。
絵画は、類似を用いて、他人の心に何らかの像を思い浮かべさせることを意図したコミュニケーション的行動の産物である。また制作者は、この意図に気づかせることで、この結果を達成するという二重の意図を用いる。
また、意図だけでなく、私たちはこの目的のために、絵画に関する様々な慣習を利用できる。慣習の存在は、鑑賞者に正しい対象を思い浮かべさせる/制作者の意図した正しい対象を思い浮かべるという協調問題(コミュニケーション問題)を解決する。ここではルイスの慣習論が参照される。
Abell説の最終的なステートメントはとても複雑で長い(条件が六つある)のだが、中心は以上の通り。グライス的なコミュニケーション的意図に訴える語用論的な説になっている。