SFマガジン2020年6月号に掲載されていた短篇群がどれも良かった。
「英語圏の最近のSF短篇が載ってるのかー。紹介見るとおもしろそうな作品が多いので読むかなー」くらいの気持ちで読みはじめたのだが、読むうちに「あれ、これ、掲載作全部おもしろくないか?」となったので、出ているうちに感想を書くことにした。
劉慈欣「鯨歌」
これはおそらく特集の一部ではないが、『三体』の著者のデビュー作。とある方法を使って、麻薬の密輸をする話。『幼年期の終わり』でも似たようなネタがあったなーと思った(わかりにくいネタバレ)。
P・ジェリ・クラーク「ジョージ・ワシントンの義歯となった、九人の黒人の歯の知られざる来歴」
ジョージ・ワシントンが買った九本の歯の来歴がひとつずつ語られる。魔法が存在する仮想の歴史になっており、九本の歯の持ち主はそれぞれ何らかの形で魔法と関わりをもっている。
主にこの作品の紹介を見て、「なんだそりゃおもしろそう」と思って買った。歴史に奇想とホラ話を混ぜた感じの短篇で、期待通りおもしろかった。ブラックカルチャーと奇想を組み合わせたという点では、以前読んだヴィクター・ラヴァル『ブラック・トムのバラード』などにも少し似ているかもしれない。
アマル・エル=モータル「ガラスと鉄の季節」
鉄の靴を履いた女と、ガラスの山に住む女。呪われたふたりの女が出会う。ガールミーツガールもの。
ゼン・チョー「初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい」
竜になろうとして失敗しつづけていた蛇(イムギ)が、昇天を邪魔した人間を食べてやろうとして、人間の女性に化け、物理学科の院生(女性)に近づく。
前半は伝説風なんだけど、途中から急に現代の話になって、院生と蛇のロマンスになる。これもガールミーツガール。
おそらく今号の表紙のイラストは本作をイメージしたものだと思われる。
今回の特集では、ジェリ・クラークとこのゼン・チョーが好きだった。
わたしは基本的に、人間以外のものと人間の関わりを書いた作品が好きなので、これももちろん大好き。蛇が人間のことがあまりよくわかっておらず、ちょくちょくヘンなかんちがいをしている(院生のことはおおむね僧侶だと思っている)辺りなど、すごく良かった。何ていうか、民話風の想像力と、現代的な感覚を組み合わせたポップな感じで、「日本のマンガとかでこういうのあるな」と思った(九井諒子の短篇っぽいかもしれない)。ゼン・チョーはもっと読んでみたい。