スーパーヒーロー研究の紹介

先日「スーパーヒーローの概念史」という論文を書いた。その時の記事でスーパーヒーロー研究には先行研究が多いと書いたが、以下でスーパーヒーロー研究の基本書を紹介することにしたい。需要があるのかよくわからないが、書き残さないと自分で忘れてしまいそうなので書いておく。

まずアメリカにおけるコミック研究の現状を簡単に紹介しよう。The Routledge Companion to Comicsの序文によると、アメリカで、キャリアの最初からコミックを専門にしてコミックで博論を書いたのは、2005年に Alternative Comics を博論として出版したCharles Hatfieldさんがはじめてらしい。もちろんそれ以前にもコミックを扱った研究はあるのだが、「コミック研究が専門」という人はほとんどいなかったそうだ。

例えば、日本でもよく参照されるマクラウドUnderstanding Comicsは、アメリカでもコミック研究に大きな影響を与えた重要な著作だが、マクラウドはマンガ研究者というわけではなくマンガ家だ。

Understanding Comics

Understanding Comics

マンガ学―マンガによるマンガのためのマンガ理論

マンガ学―マンガによるマンガのためのマンガ理論

クラウドの本はどちらかというとアカデミックな感じだが、コミック研究という分野は、在野の愛好家に支えられた分野でもあるので、もう少しやわらかい一般向けの本もたくさん出ている。

ここでわざわざ〈一般書〉と〈研究書〉を区別するのは、両者は目的や体裁がかなり違うからだ。一般書の方は生き生きした記述が多くそれはそれで非常にためになるのだが(特に、私のようにアメリカに住んでるわけではない人間にとっては、一般書の存在はありがたかった)、文献やデータの参照をきちんと書いてくれていないことが多い。「この発言の出典どこだよ……」「この数字どこからもってきた……」みたいなことが多いので、論文で参照する場合は結構使いづらいのだ。そういうわけで、研究として扱いたい場合は、たとえ内容が無味乾燥であっても研究書を重宝することが多い。

日本語で読めるもの

以下の2冊は、一般書カテゴリーだが、どちらもすごく良い本で、これを読むだけでスーパーヒーローコミックの通史がある程度わかる。前者は図版も多いので内容もイメージしやすいと思う。後者は、グラント・モリソンという一級のコミックライターが書いたものなので迫力があるし、これ自体が一次資料として重要なものだと思う。

THE HERO―アメリカン・コミック史

THE HERO―アメリカン・コミック史

DCコミックスアンソロジー』は、DCコミックスの重要な著作を並べつつ、簡単な歴史解説をつけたもの。これは歴史解説とセットで作品の翻訳も読めるので非常におすすめだが、当然ながらDCの作品しか載っていない。

DCコミックス アンソロジー

DCコミックス アンソロジー

基本書

スーパーヒーロー研究はすでにある程度先行研究が整備された分野なので、ありがたいことに論文集とリーダー*1と教科書が出ている。

What is Superhero?は、スーパーヒーローの定義について研究者とクリエーターを集めて、それぞれの意見を書かせましたという内容だが、執筆陣が豪華で、代表的な研究者と、とんでもない大御所のクリエーターが集まっている。

What is a Superhero?

What is a Superhero?

The Supehero Readerはスーパーヒーロー研究の代表的論文を集めたリーダーで、ここに入っている論文はどれもおもしろかった。これを読むと、代表的な研究者や研究のバラエティの広がりも含めてわかると思う。姉妹編でA Comics Studies Readerというのも出ている。こちらはスーパーヒーローコミックにかぎらず、英語のコミック研究の論文を集めたもの。

Superhero Comics はBloomsbury Comics Studiesというシリーズの一冊らしく、教科書的な一冊。良い本ではあるが、ちょっとぶ厚いのが欠点。

Superhero Comics (Bloomsbury Comics Studies)

Superhero Comics (Bloomsbury Comics Studies)

おまけ

これくらいで十分な気もするが、以下おまけ。

A Brief History of Superheroes は一般書カテゴリーだがマンガだけではなく、後半で映像化の歴史が網羅的に紹介されていた。

Comic Book Nation は研究書カテゴリーで、歴史家が書いたものなので、歴史の部分が詳細。

*1:代表的な論文を集めた論文集。