ニック・ザングウィル「ホテルペインティングと芸術の本質」

Nick Zangwill, Hotel Paintings and the Nature of Art: Everyday Artistic Phenomena and Methodology - PhilPapers

Zangwill, Nick (2018). Hotel Paintings and the Nature of Art: Everyday Artistic Phenomena and Methodology. The Monist 101 (1):53-58.

The Monistの日常美学特集に掲載された論文。

  1. ホテルペインティング(ホテルの部屋にある絵)は、観客の目に止まらず、すぐ忘れられるような無難なものであることが望ましい。ホテルペインティングはまさにそれを目指して作られる*1
  2. しかしホテルペインティングは芸術である。

という2つの前提から、芸術作品に関する美的機能説──芸術作品とは、鑑賞者に美的経験をもたらす機能をもった人工物であるという立場──など、鑑賞者の反応によって芸術を定義する立場への反例としている。

つまり、ホテルペインティングにとってはすぐ忘れられることが成功の条件であり、美的経験をもたらすことは目的ではない。そういうタイプの芸術作品もあるのだとすると、美的機能説のような立場は芸術をうまく捉えられていないということになるという議論だ。おそらく、スーパーでかかってるBGMなどでも同じ議論はできそうな気がする。

本当にホテルペインティングは芸術作品なのか?という点は疑問の余地がありそうだが、ホテルペインティングは絵画であり、絵画は芸術であるという以上の議論は特になかった。

ただし、ホテルペインティングの目的は忘れられることにあるという指摘は非常に印象的なものではあると思う。今改めて考えてみると、先週末泊ったホテルにどんな絵があったのか、そもそも絵があったのかすら思い出せないことに気づいた。

*1:著者も指摘するように、制作者はホテルペインティングとして作ったわけではないのだが、無難な絵だったためにホテルペイティングとして採用されるという可能性もある。ただしその場合でもホテル側の目的は、無難さにあると言えるだろう。