Hunter Crowther-Heyck「ジョージ・A・ミラー、言語、心のコンピュータメタファー」

George A. Miller, language, and the computer metaphor of mind. - PubMed - NCBI

心理学史の論文。認知革命前後の話を扱っている。

1950年代、計算機のメタファーは心理学に革命(認知革命)をもたらしたと言われる。それまで主流だった行動主義──つまり、心理学の対象は直接観察できない〈心〉という謎めいたものではなく、外面的に観察できる行動なのだという発想──は打ち捨てられ、「心は存在し、心理学者の仕事はそれを研究することなんだ」と多くの心理学者は考えるようになった。

この論文では、「なぜ計算機のメタファー──つまり人間の心を計算機のようなものだと考えること──がそのような力をもったのか」という問いを扱っている。確かに、よく考えると、これは奇妙な事態だろう。何しろ、心をもたないもの(計算機)とのアナロジーが、なぜか心理学を変え、〈心〉という対象を再び中心に据えるような変化をもたらしたというのだから。著者も指摘するように、人間を一種の機械と見なすという発想は、そもそも行動主義者の中にもあったはずだ。

この論文では、ジョージ・A・ミラーという心理学者の軌跡を追うことで、この問い(「計算機のメタファーはなぜ心理学を変えたか」)に答えている。ミラーは認知革命の最初のきっかけとなった論文「マジカルナンバー7プラスマイナス2」を書いた心理学者だ。一方、ミラーはハーバードでS. S. スティーヴンスの元で行動主義の教育を受けている。ちなみに、ちょうどこの前に読んでいたWorking Knowledgeがこの直前までのハーバード心理学科を扱っていたので、この論文でその後の話を知れて個人的には勉強になった。

ミラーは、シャノンの情報理論に大きな影響を受け、当初はそれを行動主義心理学に取り入れようとするが、しだいにそこから逸脱していく。 著者によれば、コンピュータの比喩が反行動主義につながった理由は三つある。

  1. コンピュータとの比喩は、当時登場しつつあったチョムスキー言語学に結びついていたが、チョムスキーは人間の心によって言語を説明しようとした。
  2. 行動主義は心理学の独立と固有性を主張したが、コンピュータメタファーは学際的なアプローチにつながった。
    • ジョージ・ミラーは戦時中の軍事研究で、学際的なタスクベースのアプローチに慣れていた。
  3. コンピュータメタファーは、心理学に新しい研究プログラムをもたらした。
    • 行動主義者のネズミを使った研究が、人間を使った研究に置き換えられた。