Michael Friedman「現代哲学のカント的テーマ」

Michael Friedman, Kantian Themes in Contemporary Philosophy: Michael Friedman - PhilPapers

Friedman, Michael (1998). Kantian Themes in Contemporary Philosophy: Michael Friedman. Supplement to the Proceedings of the Aristotelian Society 72 (1):111-130.

この論文で、マイケル・フリードマンは、ストローソンとマクダウェルという現代の「カント主義的」哲学者二人のカント解釈を取り上げ、批判している。この二人は哲学の方法論という側面に関しては、ほとんどカント的ではない。

これに対してもちろん「カント的じゃなくてもええやんけ」という反論は可能だろう。フリードマンもさすがにそれが批判になるとは思っていない。むしろフリードマンが強調するポイントは、「じゃあ現代においてカント的な哲学って、ストローソン、マクダウェル路線以外だとどういうものになるの?」というオルタナティブの探求にある。

カントが本来超越論的哲学でやりたかったことは、「メタ科学としての哲学」だ。カントは、ユークリッド幾何学ニュートン物理学という分野が、(1)アプリオリな知識(総合的アプリオリ)の例であると捉えた上で、(2)それが厳密科学としてうまくいっていることを前提にしていた。幾何学と物理学という一階のアプリオリな科学があることを前提にした上で、なぜそんな学問が可能なのかを考えようとしたのだ。

一方、ストローソンやマクダウェルらは、カントの哲学を、ユークリッド幾何学ニュートン物理学という当時の古臭い科学から切り離した。ストローソンの場合は、カント哲学は、経験の形而上学として解釈され、〈われわれのような経験主体が持たざるをえない基本的概念セット〉の探求になる。マクダウェルはそれを規範的な「理由の空間」の構造の探求として捉える。またストローソンもマクダウェルも「自然主義」を否定し、哲学の固有の対象は、「概念」や「理由の空間」であるとする。

つまりストローソンやマクダウェルにとっては、哲学は科学と切り離された自律的な領域であり、哲学固有の探求対象が存在している。しかし、フリードマンに言わせるとこれはまったくカント的ではない。特にストローソンは、合理的直観によって概念の必然的連関を探求すると言っていて、まったくカントではない。

じゃあ何がカント的なのか?

ここでフリードマンは20世紀の科学的哲学の伝統に目を向ける。非ユークリッド幾何学と相対論の衝撃──カントが総合的アプリオリの典型例としたユークリッド幾何学ニュートン物理学は、必然的に正しいものではなかった──は、論理実証主義者たちにはよく認識されていた。

これに関連して、ライヘンバッハは「アプリオリ」の意味を以下の二つにわけている。

  1. 必然的で改訂不可能で永久不変のもの
  2. 知識の対象の概念を構成するもの

アプリオリ」を後者の意味で捉えるかぎり、それは、われわれの認識の基本的構成要素であるという点では基礎的なものであるが、にもかかわらず歴史的に変化することがありえる。この後者の捉え方によれば、アプリオリなものは、トマス・クーンの「パラダイム」のように、歴史的なものになる(例えば、相対論によって、時間と空間の概念は基礎的なものではなくなった)。言語のフレームワークの変化を受け入れるカルナップの立場も、本来はこのように解釈されるべきものだろう。ライヘンバッハやカルナップらは、同時代に進行していた科学革命を横目に見ながら、それを理論的に捉えようとしていたのだ。

フリードマンは、超越論的哲学の役割を以下のように捉える。

  1. 科学革命が起き、通常科学のパラダイムが使いものにならなくなり、新しいパラダイムが登場する
  2. 超越論的哲学が登場し、新しい科学のパラダイムを明確化する

これは、哲学を通常科学の一部に吸収するような立場とも異なるし、哲学は、科学と切り離された哲学固有の領域だけやってればいいよという立場とも異なる。カントや論理実証主義は、同時代の科学革命を真剣に受け止めた上で、何とかそれを哲学的に捉えようとした。それが超越論哲学だ!ということらしい。

ちなみに、私は未読だが、以上のようなフリードマンのカント解釈は、おそらく以下の著作にまとまっているはずだ。

Kant and the Exact Sciences

Kant and the Exact Sciences

しかし、この立場だと、超越論的哲学は、科学革命が起きてるときしか仕事がないので、普段は何をすればいいんだろうという点が気になった。