Francesco Berto「様相的マイノング主義とフィクション: 三つの世界で最善のもの」

http://philpapers.org/rec/BERMMA
Berto, Francesco (2011). Modal meinongianism and fiction: The best of three worlds. Philosophical Studies 152 (3):313-35.

  • 1. フィクションの方法論: 最小の修正と受容の制約
  • 2. 内的言説と外的言説
  • 3. 素朴マイノング主義と核的マイノング主義
  • 4. 虚構主義
  • 5. 実在論、de re的ふりとde dicto的ふり
  • 6. 圧縮されたMMMの紹介
    • 6.1 不可能世界
    • 6.2 制限された包括原理
    • 6.3 存在-帰結
  • 7. 形式的なMMM意味論
  • 8. MMMの正確さ
  • 9. 結論

マイノング主義というのは存在しない対象を認める立場。
様相的マイノング主義というのはプリーストなどの立場で、普通のマイノング主義と違って、可能世界意味論を全面的に取り入れ、非存在対象を可能世界ないし不可能世界の住人として扱う。
この人は様相的マイノング主義形而上学[Modal Meinongianism Metaphysics]略してMMMをフィクションに関する最善の立場としている。ここでは、旧来のマイノング主義と虚構主義(反実在論)と抽象的人工物説と比較し、MMMがよいという議論をしている。

評価基準として、Bertoは以下を置いている。

最小の修正
もし日常的なフィクションに関する発言を文字通りに受け取るとおかしなことになるとしても、修正は最小限にする。パラフレーズは最小限にする。
受容の制約
パラフレーズをする場合は、パラフレーズは能力ある発話者が(理論的説明さえ与えられれば)受容可能なものでなければならない。

素朴マイノング主義の問題

素朴マイノング主義は、キャラクターが語られた通りの性質を文字通りに持つと考える。ホームズは存在しないが、人間であり、探偵であり、ロンドンに住んでいる。
この問題は、人間であるものは、物理的で具体的な体を持ち、空間的な位置を持つこと。ところが、ホームズについてこれを認めることはできない。

虚構主義の問題

虚構主義は、キャラクターは文字通りには存在せず、ふりやごっこの産物だという立場。
この立場の問題は、「コナン・ドイルがホームズを作った」「ホームズはヴィクトリア朝時代を体現している」など、文字通りの真剣な主張に見えるもの(フィクション外的言説)もふりであると主張しなければならないこと。無駄なパラフレーズをしなければならない。

実在論

ホームズは人間が作った人工的な抽象物であるという立場。ホームズが文字通りに持つ性質は「コナン・ドイルによって作られた」など、フィクション外のものにかぎられる。
この立場の問題は、「ホームズは存在しない」は文字通りには認められないこと。実際はホームズは(創作物として)存在する。
あと、神話や誤った科学に現れるものには拡張できない。

様相的マイノング主義

ホームズはこの世界には存在しないが、他の可能世界や不可能世界には存在する。
ホームズは可能世界では人間であり、探偵である。また、ホームズはフィクション外の性質をこの世界で持つ。ホームズは、ドイルによって作られたとか、ヴィクトリア朝時代を体現しているといった性質を現実世界で持つ。
また、ホームズは現実世界には存在しないので、「ホームズは存在しない」は文字通りに認められる。

感想

様相的マイノング主義と抽象的人工物説は、形式的にはとても似た立場になるので難しい。どっちも、キャラクターは現実世界では具体者ではないが、お話の中で人間だったり、探偵だったりすることは認めている。
ちなみに、抽象的人工物説だと、フィクション内言説は「ホームズ(という非具体物)は探偵である」などの形になり、非具体物に対して、それが人間であるかのようなふりをしていることになってしまう。Bertoはそこはおかしいのではないかと批判している。
しかしこの批判はひどくて、様相的マイノング主義の場合でも、フィクション内言説は、非存在対象について語っていることになる。非存在対象は具体物ではないので、Bertoもほぼ同じことを言っているはずなのだが。


追記。プリーストの翻訳入れ忘れた。
存在しないものに向かって: 志向性の論理と形而上学存在しないものに向かって: 志向性の論理と形而上学