Lopes『図像を理解する』

Understanding Pictures (Oxford Philosophical Monographs)

Understanding Pictures (Oxford Philosophical Monographs)

Lopes, Understanding Pictures
少し読んだものをまとめようと思ったのでひさしぶりに。
depiction(描写)と呼ばれる哲学的テーマがある。なぜ、あるいはいかにして絵は外部の対象を描写することができるのかを問う分野だ。伝統的には美学の一分野で主として芸術絵画を扱うが、このLopesや最近の人(Kulvickiなど)は、絵画、教科書の図、写真、地図、グラフなど広義のpicture(図像)/image(画像)を対象とし、広い意味での図像の哲学と呼ぶべきものを形成している。他分野からの影響も活発で、特に知覚の哲学からの影響が大きいことは目についた。知覚と図像は、機能面で似ている部分が多く(対象志向性、内容を持つ、現象的性格を持つなど)アイデアを流用しやすいようで、例えばLopesは知覚の非概念的内容についての議論から、図像にも非概念的内容があると議論している。Kulvickiは知覚のセンスデータ説に影響を受けた描写の理論を展開している。
この本では、前半でグッドマン、ウォルハイム、ウォルトンなど従来の描写の理論のまとめと批判が載っているが、このまとめが非常にわかりやすく(というのはまとめられている人たちの書いたものが今から見るとわかりにくいせいもあるのだが)ためになった。
Lopes自身の描写理論は簡単に説明すると、アスペクトと認知という二つの概念を用いる。アスペクトとは対象のどの部分を描き、どの部分を描かないかというパターンのこと。例えばキュビズムの絵画であれば、一つの視点から見た絵には描かれない側面などが描かれるが、その分描かれない部分もある。Lopesはこれをコミット、明示的非コミット、暗黙的非コミットの組み合わせで説明する。コミットは、対象がある性質を持つ/持たないを描くこと(ex. 髪が黒いことを描く)。暗黙的非コミットとは、漫画的な絵で鼻を省略して描かない場合のように、対象がある性質を持つかどうかに触れない場合。明示的非コミットは、対象がある性質を持つかどうかを描けない場合(帽子で隠れているから髪の色は描いていないなど)。図像のスタイルによって、三つをどう組み合わせるかについては異なる選択がなされる。
一方、われわれは対象の姿が様々に変容しても変わらずに対象を認知する能力を持っている。図像は対象の特定のアスペクトを切り出し、見る者はアスペクトを通じて馴染みの対象を認知する。これがLopesの考えている描写の基本的なシナリオ。ただし、認知を用いる部分については、必ずしも認知能力を用いないパターンもあると考えているらしい。例えば象徴的な記号を通じて対象を特定する場合などがこれにあたる。
このLopesの説明が全体としてうまくいっているかどうかはまだよくわからないので、もう少し考えてみたい。しかし、図像を「情報の流れ」の中に位置づけ、言語的記述などと比較しつつ、対象の情報を伝える表象システムのひとつとして位置づける姿勢は魅力的だった。なお、本の後半ではフィクションの図像、図像を引用する図像など、応用的な事例が扱われており、こちらもおもしろい。