分析美学基本論文集
『分析美学基本論文集』ついにでました!
分析美学という分野が認知され、ついに論文集まででたことは大変すばらしいことです。
訳者の方々の労力には頭の下がる思いです。
ただ、ちょっと論文セレクトについてはいろいろ言いたいことがあるので書いておく。まず、この論文集にはいくつかまさに「分析美学基本論文」と言えるようなものが入っている。それらの訳が出たことは非常に価値のあることだ。しかし、なぜ入っているか意味不明というか、これが基本論文だと誤解されたらいやだなと思うものがいくつか入っている。あとなぜこれが入っていないのかわからないというものがいくつかある。
まず目次をあげる。
- アーサー・ダントー「アートワールド」
- ジョージ・ディッキー「芸術とはなにか――制度的分析」
- ポール・ジフ「芸術批評における理由」
- フランク・シブリー「美的概念」
- ジョセフ・マゴーリス「芸術作品の評価と鑑賞」
- モンロー・ビアズリー「視覚芸術における再現」
- ジェロルド・レヴィンソン「文学における意図と解釈」
- ケンダル・ウォルトン「フィクションを怖がる」
- ダニエル・ジェイコブソン「不道徳な芸術礼賛」
まったく文句のつけようがない古典論文はこの辺。ダントーは(いい論文かはともかく)まあ有名だし、シブリー「美的概念」なんかはまさに古典中の古典。これを入れない手はない。
- アーサー・ダントー「アートワールド」
- フランク・シブリー「美的概念」
- ケンダル・ウォルトン「フィクションを怖がる」
以下はなんで入っているのか正直よくわからない。参照されているところは見たことがない。ジフにいたっては「誰?」という感じ(ビアズリーはもちろん有名だけど、なんでこの論文なのか)。
- ポール・ジフ「芸術批評における理由」
- モンロー・ビアズリー「視覚芸術における再現」
試しにPaul Ziffをphilpapersとgoogle scholarで検索してみる。論文自体それほど多くない。また、ここで訳されているReasons in Art in Criticismにいたっては項目すらない*1。これは基本論文どころか、超マイナー論文ではないのか……。ジフは見た感じ、芸術の定義に関する論文で一本よく引用されているものがあり、芸術哲学の論文も数本は書いているようだが、基本的には言語哲学者であるように見える。
ビアズリーの論文も同じ感じで、まず参照されているどころか、情報がほとんどネット上になかった。
追記: ビアズリーは調べたら本の章で本自体はよく参照されているものだったのでビアズリーに関しては訂正します。ただ、絵画表現(描写)に関してこれがよく参照されているということもないと思いますが。
いや、もちろん参照されていなくてもいい論文はあるだろうけど、ほとんど影響もないものを「基本論文集」に入れるべきではない。
あと、いくつか重要な論文が入っていないのはどうなのかなと思う。例えばウォルトンの「芸術のカテゴリー」が入っていないのはひどいと思う。言語哲学基本論文集にフレーゲの「意味と意義について」が入っていないレベルではないか。
これに関しては森さんが私訳をネット上に公開してくれている。
https://note.mu/morinorihide/n/ned715fd23434
以下収録論文と入れてもよさそうだった論文をあげ、Google Scholarで調べた引用数をつける。これ見たら雰囲気わかるんじゃないかと思うんだけど。JacobsonとZiffとBeardsleyは他のものにすればよかったのでは。。
いやもちろん引用数なんて目安にすぎないし、Google Scholarの数字も完全に信用できるものではないけど、引用数400と40では影響力は全然ちがう。
著者 | タイトル | 引用数 | 基本論文集収録 | |
---|---|---|---|---|
W. Wimsatt, M. Beardsley | The intentional fallacy | 1272 | ||
M. Beardsley | Aesthetics, problems in the philosophy of criticism*2 | 1041 | ○ | |
A. Danto | The Artworld | 986 | ○ | |
D. Lewis | Truth in fiction | 695 | ||
F. Sibley | Aesthetic concepts | 434 | ○ | |
K. Walton | Categories of art | 422 | ||
K. Walton | Fearing Fiction | 389 | ○ | |
K. Walton | Transparent pictures | 292 | ||
R. Wollheim | Art and Its Objects: An Introduction to Aesthetics | 307 | ||
J. Levinson | What a musical work is | 223 | ||
J. Levinson | The pleasures of aesthetics | 187 | ○ | |
J. Levinson | Intention and interpretation: A last look*3 | 71 | ○ | |
J. Margolis | Art and Philosophy*4 | 180 | ○ | |
A. Carlson | Appreciation and the natural environment | 146 | ||
G. Dickie | Art and the aesthetic: An institutional analysis*5 | 511 | ||
G. Dickie | Defining art | 104 | ||
G. Dickie | What is art? An institutional analysis | 46 | ○ | |
D. Jacobson | In praise of immoral art | 68 | ○ | |
P. Ziff | Reson in Art Criticism | 52 | ○ |
まとめ
- 『分析美学基本論文集』には、いくつか基本論文と言えないようなものが入っている。
- 『分析美学基本論文集』には、いくつか基本論文が入っていない。
- 引用数などは調べようと思えば簡単に調べられるので調べてみよう。
追記
最初載せていたデータが結構いいかげんだったのでいくつか訂正しました。まずPaul Ziff, Reason in Art Criticismに関しては、wikipediaによると当時はそれなりに話題になった論文で、60年代には2つのアンソロジーに載ったそうです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Ziff
ただシブリーのAesthetic Conceptsなどと並ぶような論文かというとやはり疑問ですが。被引用数は58で「当時はそこそこ話題になった論文」くらいじゃないかと。
ビアズリーに関しても、この著作自体が芸術哲学の古典ではあるでしょうが、画像表現/描写に関してビアズリーの立場がすごく影響を与えたということは特にないので、ここはウォルハイムとかの方がよかったのではないかと思います。
ジェイコブソンも基本論文とまで言えるかどうかは疑問です。そもそもこれは結構新しい90年代の論文だし。