L・T・ディキンソン著、上野直蔵訳『文学の学び方―付/論文・レポートの書き方』、南雲堂、1969年
これ、とてもいい本なのだけど、そう言えばあまり知られていないかもしれないと思ったので紹介する。本書は、大学で文学を学ぶ学生のために文学研究のABCを教えるために書かれたものだ。原著の初版が1959年、翻訳の初版が1969年で、もはや古典的な教科書といってもよいかもしれない。
私は学生のときにこの本を偶然見つけ、パラパラめくって惚れこんですぐ購入した。それ以来、文学研究/批評ってなんだっけ?となるたびにこの本をめくっている。
文学研究の教科書というと、イーグルトンの『文学とは何か』みたいに、最新の批評理論を教えるみたいなものを想像するかもしれない。しかしこれはもっとずっとクラシカルで、もっと基本的なことが書いてある本だ(古い本だからというのもあるかもしれない)。
本書は「批評っていったい何を書いたらよいのかまったくわからない」という学生にむけて、こういうことを書けばいいんだというのを豊富な具体例つきで詳細に紹介してくれる本だ。「文学を読んでレポートを書くときはこうやって書け!」というのを手取り足取り教えてくれる。
例えば、本書では研究の具体的な進め方が本当に本当に具体的に書いてあって、5章「研究のメカニック」の「計画をもって読むこと」という節では、以下の項目が詳細に解説される*1。
- 先ず全体像をつかむこと
- 熟読
- 作品の各々の区切りにしるしをつける。
- 肝心の文章にアンダーラインを引く。
- 余白にコメントを書き込む。
- スタイルを区別するシステムをつくる。
- 熟考
- 作品を全体として考える。
- 作品を連関において眺める。
- 時々は批評書を読む。
- その作品について他の人と討議する。
「なんだあたりまえじゃないか」と思ってはいけない。本書には、小説のどういう部分にアンダーラインを引くべきであるかまで書かれているのだ。そんなこと教わる必要がないと思う人は、「小説を批評的に読むときはこういうことに気をつけて読むものだ」というのを無意識にやっているから、何をしているのか忘れているかもしれない。しかし、それを人に説明できるのはとてつもない能力である上、自分のやっていることを意識的に見直すことは、できる人にとっても重要であるだろう。
この本は、「よくできたマニュアル本は、優れた方法論の書でもある」というのを地で行くような本であり、批評とは何かとか、文学研究って何をするものかということに興味がある人にもおすすめできる。他分野の人が、文学研究って何をやっているものなのかというのをのぞき見るのにもよい本であると思う。
目次
- 序文
- 第一章 文学研究の性質
- 文学研究の方向
- 批評の役目
- 第二章 小説(虚構)
- 小説の性質
- 小説の諸要素
- 短編小説
- 第三章 劇
- 劇の性質
- 劇の諸要素
- 劇の種類
- 劇と劇場
- 第四章 詩歌
- 詩歌の性質
- 詩歌の諸要素
- 第五章 研究のメカニック
- 自分のコースを知ること
- 計画をもって読むこと
- 研究課題の具体例
- テストのための準備
- 第六章 試験
- 計画立案についての提言
- 試験問題とその答案の例
*1:ちなみに6章はなんと「試験」であり、試験を受ける際にどうすればよいかが書いてある。さすがにこれは大学生以外には関係ない上、制度が違うとほとんど意味がないが。