読み終わったので全体の感想。
図像と描写の哲学の教科書であると同時に、広義のイメージ(グラフやfMRIや心的イメージ)の哲学の教科書。
各章に要約と読書案内もついている。
Images (New Problems of Philosophy)
1章から5章は描写の理論の各説の紹介になっている。Kulvickiは描写の理論を5つにわけている。
(なお、別のアンソロジーでもふり説が入らないだけでほぼ同じ四種類にわけていたので、この分類は比較的メジャーなものかもしれない)
- 経験説
- 図像は特異な経験によって対象を描写する。主にWollheimの「内に見る」説
- 認知説
- 図像は対象を再認する私たちの認知能力によって対象を描写する。Lopes、Schier
- 類似説
- 図像は対象に類似することで対象を描写する。Hopkins、Abell
- ふり説
- 図像が対象を描写するのは、私たちが図像を見て、対象を見ているかのようなごっこ遊びをするから。Walton
- 構造説
- 記号と対象の関係を特徴づけることで図像を他の記号から区別する。Goodman、Kulvicki
各説の紹介は丁寧で、例えばフッサールの描写理論が(少しだけど)紹介されていたり、認知説という言葉が知られる前に認知説に近い立場(Neander)があったことを紹介していたり、先行研究のフォローはすごくしっかりしている。
また、正直言って、経験説、認知説、類似説はとてもよく似ているのだが、Kulvickiはその辺りの違いもうまく説明してくれている。どの説でも図像の中に対象を見るという経験が問題になるのだが、認知説はこの「図像の中に対象を見る」ことが、通常の対象認知の能力と同じものであることにこだわる。一方、類似説はこの経験が「類似によって」生じることにこだわるなど。
また、ふり説と構造説は図像を含めた表象一般の理論なので、他の三つの説とは相互に補完する関係にある。ふり説や構造説によって、他の説を統合し、他の表象との比較が可能になるかもしれない。また、他の説の要素を組み込むことで、構造説やふり説の説明力はますかもしれない。
Kulvicki自身は構造説をとっており、構造説の章では自分の立場も紹介している。また特に後半の応用例では構造説的な説明が目立つ。なおKulvicki自身のアイデアは結構難しく、重要なことを言っているようにも思えるのだが、個人的にはまだよくわからない。大雑把にいうと、写真の写真や絵の絵は、元の図像と統語論的要素を共有する。これを「透明性」(ウォルトンの透明性とは関係ない)と呼び、図像の特徴のひとつとして組み込んでいる。この辺についてはmatsunagaさんが以下でちょっと解説を書いている。Kulvickiの骨だけ内容や透明性の話は突っ込むとかなり複雑そうなので、誰か整理してほしい。
http://9bit.99ing.net/Entry/16/
本の後半は、描写の理論の応用と広義のイメージの問題を紹介する。写実主義、写真(を通してものを見ることができるか)、科学におけるイメージ、心的イメージの問題が扱われている。科学におけるイメージの章や心的イメージの章では、描写の哲学にかぎらない他の哲学的問題との関係を整理していて、こちらも大変ためになった。