Dominic Lopes『コンピューターアートの哲学』

A Philosophy of Computer ArtA Philosophy of Computer Art


今日ブックフェア「分析美学は加速する」で買った。まだ序文しか読んでいない。Lopesの本はいくつか読んだが、どれも素晴しいものなので期待している。
(傑作しか書かない人という印象をもっている)


そもそもコンピューターアートってなんだよという話だが、コンピュータをメディアとして利用する芸術という感じらしい。多分「メディアアート」と呼ばれるものの多くやビデオゲームなども含まれるのだろう。似た用語はいくつかあって、スタンフォード哲学事典には「デジタルアートの哲学」という項目がある。まあコンピューターアートなり、デジタルアートなどを扱った哲学文献がそこまでたくさんあるわけではないけれど。


序文はなかなか興味深い。コンピューターアートは新しい芸術形式であるため、それに関わる人は、いくらか哲学をせざるをえない。「芸術」「作品」「意味」といった概念はどんな芸術形式でも適用されるが、多くの場合批判的視点なしで使用される。ところが、コンピューターアートの場合、それが本当にぴったりくる概念なのかどうかを検討せざるをえない。
コンピューターアートの哲学にたずさわる哲学者には、厳密に定式化され、体系的に結びついた少数の命題をつくりだすことが求められる。厳密に定式化されているというのは個々の概念にきちんと分析が与えられるということだ。この本では「インタラクティブ性」「ユーザー」といった新しい概念を分析する。
(ぱらぱら見た感じだと、「デジタルディスプレイ」などを扱った節もある。ユーザーインターフェースなんかにもそのまま適用できそうな話が多い)


この本はコンピューターアートの定義、存在論、美学などに包括的に取り組む。音楽や文学といった古典的芸術形式を扱う哲学の場合、そのすべての側面を扱うということは難しいが、コンピューターアートのように、まだあまり研究されていない芸術の場合、包括的なアプローチから多くを学べるからだそうだ。ちなみに包括的アプローチは、CarrollのA Philosophy of Mass Artを参考にしているらしい。


また、コンピューターと芸術を扱ったはじめての哲学論文として以下が参照されていた。これもおもしろそうだ。

Parkinson, G. H. R. (1961). The Cybernetic Approach to Aesthetics. Philosophy 36 (136):49 - 61.
http://philpapers.org/rec/GHRTCA


また、この本の謝辞には使っているコンピューターやソフトウェアのリストが並べられている。私も本を書いたらEmacsとpandocに謝辞をささげたい。