スタンフォード哲学事典「価値理論」
Value Theory (Stanford Encyclopedia of Philosophy)
ちょっと前に読んだ。
著者は良さ優先説good-first theoryと価値優先説value-first theoryを区別している。普通、「良さ/悪さ」と「価値」は区別されないが、両者のどちらが優先されるかを区別する文脈があるようだ。この辺ややこしかったので整理しておく。
問題は、著者が価値言明と呼ぶ、特殊なタイプのgoodの用法について。
- 快は良いものである。Pleasure is good
- 知識は良いものである。Knowledge is good
なぜ、これが特殊かと言えば、「良いダンサー」などとちがい、快と知識のどちらが良いかは比較できないように思われるから。一定量の快と知識の比較ならともかく、量を限定せずに快と知識の良さを比較することは意味をなさないだろう。
良さ優先説によれば、価値言明は、「快を得ることは、快を得ないこともよりも良い」「知識を得ることは、知識を得ないことよりも良い」ということを意味する。この立場によれば、価値の第一の担い手は、「知識を得ること」のような事態であり、価値言明は、事態が例化する良さという性質によって説明される。
一方、価値優先説によれば、価値言明は、「快は価値あるもの*1である」「知識は価値あるものである」ことを意味する。また、より多くの価値あるものがあることは、より良いことだとされる。この立場によれば、価値の第一の担い手は、快や知識などの性質、あるいはその例化物である。この立場では、良さ優先説と反対に、良さは、価値言明によって説明される。
まとめると、
- 良さ優先説: 価値の基本的な形は、事態が〈良さ〉という性質をもつこと。
- 価値優先説: 価値の基本的な形は、快や知識のような価値あるものvaluesがたくさんあること。
*1:「価値あるもの」の原語は可算名詞のvalues。非可算名詞のvalueは「価値」と訳している