Henry Jenkins, GAME DESIGN AS NARRATIVE ARCHITECTURE
https://web.mit.edu/~21fms/People/henry3/games&narrative.html
ゲームの物語について勉強する。
「環境ストーリーテリング」という概念を広めたヘンリー・ジェンキンスの有名な論文を読んだ。環境ストーリーテリングについては松永さんの解説記事がある。
わたしの理解では、「環境ストーリーテリング」は、現在ではおおむね「空間内の痕跡・手がかりを見つけることで、プレイヤーが過去に起きた出来事を再構成するというタイプのストーリーテリング」という意味で用いられている。
だが、今回この論文を読んでわかったのだが、これはヘンリー・ジェンキンスの元の用法よりだいぶ狭くなっている。ヘンリー・ジェンキンスがそういう話をしていないというわけではないのだが、「環境ストーリーテリング」のもとの意味はもっと広い。上のような意味は、「環境ストーリーテリング」の一種である「埋め込まれた物語」に対応している。
もともとジェンキンスが「環境ストーリーテリング」と呼んでいるのは「ディズニーランド型ストーリーテリング」というくらいの意味だ——実際論文中でも「環境ストーリーテリング」という用語は、ディズニーの遊園地デザインの手法と結びつけられている。ジェンキンスは、ディズニーランドに見られるような、空間的・環境的なストーリーテリングの手法を四つあげており、これがゲームでも頻繁に見られる手法だという流れで語っている。
ひとまず論文の内容を紹介しよう。
論文の内容まとめ
近年のゲームスタディーズでは、「ルドロジスト」(遊びとしてのゲームを重視する人々)と、「ナラトロジスト」(ゲームを物語として捉える人々)の論争がある。著者としてはこの両派のどちらにもそれぞれに共感する部分があるため、中間をいきたい。ルドロジストがいうように、ゲームの特殊性を無視して、古典的な物語のモデルをゲームに押しつけるのはよくない。しかし、一方で、ゲームと他の物語メディアと有意義な比較を行うことで学べることは多い。
著者はここで、ゲームの物語を理解するモデルとして「空間」という要素を導入したい。空間の設計は、明らかにゲームデザインの重要な要素である。
一方、空間を使ったストーリーは、ゲーム以前から存在する。世界構築と空間的物語に重点を置いたジャンル――ファンタジー、冒険、SF、ホラー、戦争——は、文学では傍流だが、ゲームとはきわめて相性がいい。ゲームは、この種のジャンルの後継者なのである。
また、ディズニーランドが採用している「環境ストーリーテリング」はゲームでも参考になる。遊園地アトラクションは、文学作品の物語をそのまま再現するのではなく、その雰囲気を喚起する。
ジェンキンスは、環境ストーリーテリングの手法として次の四つをあげる。
- 空間による喚起 EVOCATIVE SPACES
- ストーリーの上演 ENACTING STORIES
- 埋め込まれた物語 EMBEDDED NARRATIVES
- 創発的物語 EMERGENT NARRATIVES
1は、「空間によって世界観を再現する」といった感じのことを意味している。これはディズニーランドの実例を考えればわかりやすいだろう。例えば、ディズニーランドのカリブの海賊では、海賊ものの世界観を再現している。また、『スター・ウォーズ』のアトラクションでは、『スター・ウォーズ』の世界観を空間的に実現している。これはゲームでもほぼ同じことが言えて、『スター・ウォーズ』のゲームは、『スター・ウォーズ』の映画のプロットをなぞる必要はないが、『スター・ウォーズ』のアトラクションと同様に、『スター・ウォーズ』の世界を空間的に再現する必要がある。
2は、プレイヤーが自ら実演したり、目撃するストーリーを指している——いわゆる「ゲームのストーリー」といって真っ先に思いつくのはこれかもしれない。これには全体のストーリーの側面と、著者が「ミクロナラティブ」と呼ぶ小さなエピソードがある。オープンワールドゲームなどを想定すればわかりやすいが、この種のゲームの場合、大枠としての全体のストーリーが緩やかに設定されている一方で、個々の場所で直面する小さなエピソードが無数にあるという形になっている。大枠としての全体のストーリーは、プレイヤーが空間を移動し、旅をつづけることで進行するようになっている。
3は、先ほども説明したやつ。映画や小説でも、実際にはすべての出来事が直線的に語られるわけではなく、一部の出来事はあとから再構成される。例えば推理小説では、時間に沿って進行する捜査のストーリーが進むにつれ、過去の事件の内容が再構成される。
ゲームの場合でも、現在進行形のゲームプレイの中で手がかりを見つけ、過去の出来事を再構成するという語り方は広く用いられている。
4は、ゲームプレイによって自然発生する物語を指す。著者は『The Sims』の例をあげている。シミュレーション的な側面を持ったゲームでは、プレイヤーごとに異なる物語が展開される。しかし、そこでも空間デザインは重要で、ゲームデザイナーは、都市計画者と同様に、興味深い物語が起きやすい空間をデザインする必要がある。
感想
ヘンリー・ジェンキンスは、空間によるストーリーとか、環境ストーリーテリングという中にかなり色々なものをぶちこんでいるのだが、なかなかおもしろいことは言っているなと思った。現在の意味での「環境ストーリーテリング」も興味深いのだが、それ以外の箇所もわりとおもしろい。
確か町山智浩氏が『地獄の黙示録』について、この映画をつないでいるのは川下りの「川」しかなくて、個々のエピソードは、順番を変えても問題ないくらい緩やかなつながりしかないと評していた記憶がある。
ヘンリー・ジェンキンスが例としてあげている『指輪物語』などでも同じようなことは言えるだろう。大枠としてのストーリーはあるが、それはかなり緩いもので、むしろ空間を巡り、探索することが重要である。そして、目的地につけば物語は終わる。
そういうタイプのストーリーテリングがあって、それがゲームと相性が良いというのはわりと納得できる。