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『時間にとって十全なこの世界』四章/発話の真理と命題の真理とか

時間にとって十全なこの世界: 現在主義の哲学とその可能性時間にとって十全なこの世界: 現在主義の哲学とその可能性

この章では、言明の真理値の変化によって現在主義の背景にある時制理論を特徴付け、それが言明トークンの真理条件の変化という不合理な帰結をもたらすことを問題視している。

例えば、時点t1における太郎の発話: 「火かき棒が熱い」は、時点t2に真ではない。

著者によれば、これは「特定の時点に位置するトークンがかつて真ではなかったが、今は真である」という不合理な帰結をもたらす(p.143)。著者はこの方向で時制理論を特徴付けたいのでこれは大きな問題となるという。

しかし著者は、発話の真理と命題の真理、およびそれに関連した相対主義と非指標的文脈主義の区別に注意すべきである。

【ちょっと追記】
発話の真理というのは、発話の行為が、まさにその文脈における発話として真であるかということ。行為が真であるというのはちょっと変なので、「正確さ[accuracy]」みたいな語が使われることもある。一方命題の真理は、発話の内容が真であるかということ。日常的な「真である」という述語は普通、命題の真理の方にあたる。
ただ、意味論にとってプライマリーな対象は発話の真理の方になる。発話の真理こそが意味論と語用論のインターフェースになるから。
指標的な文脈主義では両者は区別されないのだけど、命題が時点によって異なる真理を持つという立場だと、両者がずれることがあるため区別しなければならない。
2015-02-17
【/追記】

一度した発話の真理が変化するという立場は、真理の相対主義であり、著者が言うようにエヴァンズの批判にバッティングする。
しかし、著者による時制理論の特徴付けは、非指標的文脈主義で十分なのではないかという印象を持った。

時点t1に火かき棒が熱く、時点t2には冷めているとしよう。非指標的文脈主義者は、同じ命題が発話の時点に応じて異なる真理値を持つことを認める。この場合命題は、カプラン的内容とか不完全な内容と呼ばれるものとなり、可能世界だけではなく、時点や場所によって異なる真理値を持つ。この立場では時点t1の発話と時点t2の発話は、同じ命題を表現しながらも異なる真理値を持つ。

文脈 発話 表現される命題 真理値
時点t1における太郎の発話 「火かき棒が熱い」 〈火かき棒, 熱い-性〉 T
時点t2における次郎の発話 「火かき棒が熱い」 〈火かき棒, 熱い-性〉 F

この立場では、発話の真理を決定するのは、命題を使用した時点なので、時点t1における太郎の発話は永久に真理値を変えない。
しかしこの立場でも、時点t2における次の発話は真なのである

時点t2における次郎の発話「時点t1に太郎が言ったことは今は真ではない」

なぜかというと、「太郎が言ったこと」は命題〈火かき棒, 熱い-性〉を指示しており、しかも上の発話では時点t2に使用されている。非指標的文脈主義は命題の真理は使用の時点によって決まると考えるので、時点t2にこの命題は真ではない。

もちろん「時点t1の太郎の発話は今は真ではない」と言うと偽になる。この立場は、命題の真理値の変化を認めるが、発話の真理値の変化を認めないからだ。発話の真理値の変化を認めると真理の相対主義になる。発話の真理と命題の真理がずれるのは直観的ではないが、この区別を提唱したマクファーレンによれば「発話の真理なんてテクニカルな概念で、意味論者しか使わないから別にいいのでは」ということになる。少なくともマクファーレンは普通の人が使うのは命題の真理の概念だけだと思っているようだ。

ともあれ、著者による時制理論の特徴付けは、命題の真理値の変化+非指標的文脈主義だけで十分なのではないか。この立場だとエヴァンズの批判には別に答えなくていい。言明の真理が変化すると言うときにどっちを考えているのかはわかりにくいが、発話の真理の変化が必要だとする理由は特に思いつかなかった。

なお非指標的文脈主義と真理の相対主義の区別は、真理の相対主義を擁護するマクファーレンの以下の論文に載っている。

http://philpapers.org/rec/MACNC
MacFarlane, John (2009). Nonindexical contextualism. Synthese 166 (2):231--250.


ちなみにマクファーレンは以下の論文でエヴァンズの批判にも答えている。すごく大雑把に言うと、マクファーレンの応答は、「われわれは主張を撤回することができる」という現象に訴えて、エヴァンズの批判に答えようとするもの(だと思う)。
MacFarlane, John (2003). Future contingents and relative truth. Philosophical Quarterly 53 (212):321–336.
http://philpapers.org/rec/MACFCA-2


どちらの論点も単著の方でより詳細に解説されているのでこっちを読んだ方がいいかもしれない。
Assessment Sensitivity: Relative Truth and Its Applications (Context and Content)Assessment Sensitivity: Relative Truth and Its Applications (Context and Content)

マクファーレンのプロパガンダみたいになったが、ちょうど今この辺を読んでいるので。。