Kathleen Stock, Only Imagineを読んだ

Only Imagine - Kathleen Stock - Oxford University Press

Only Imagine: Fiction, Interpretation, and Imagination

Only Imagine: Fiction, Interpretation, and Imagination

第一回はこちら

Kathleen StockのOnly Imagineを最後まで読んだので紹介しよう。前回書いた通り、本書は、美学における二つの領域──(1)フィクションと想像、(2)作品解釈──に関わる著作だ。虚構的真理、フィクション、想像といったフィクションの哲学のトピックを幅広く扱っているし、同時に、作品解釈に関する意図主義と反意図主義の対立を扱っている。

本書の大きな特徴と私が考えるものをあげる。

(1) 虚構的真と解釈の問題の結びつき

本書では、「虚構的真」に関する問題と、解釈における意図の問題を結びつけ、一つの問題として論じた上で一本筋の通った整理をしている。

これはありそうで今まであまりなかったタイプの整理だと思う。既存の文献では、「虚構的真はどのように決まるのか(つまりフィクションの内容はどう決まるのか)」という問題と「作者の意図」の問題はほとんどつなげて論じられてこなかった。しかし、本書では、この両者の問題が一つの構図の中で見事に整理されている。

著者が擁護する「極端な意図主義」をとれば、虚構的真に関する既存の理論の足りない部分もうまく補完されるし、反対に虚構的真に限定さえすれば「極端な意図主義」は魅力的な立場になってくるという。この辺の結論にどこまで賛成するかはともかく、本書は、虚構的真と作者の意図に関しては、詳細なサーベイを提示しつつ、それなりに筋の通った議論を展開しているので、この辺りの問題に関心があれば、読んで損はないと思う。

(2)豊富な事例と「ケースバイケース」主義

著者は本書で、「フィクションに関して架空の例は使わない」という方針を貫いている。分析哲学者としては珍しい心がけだが、これは美徳だと思う。この方針のおかげで、本書は事例集としても価値があるものになっている。例えば、「作者の意図が失敗している事例」というのはよく話題にあがるわりに、実際の事例はかなり多様で難しいのだが、本書ではおもしろい例がいろいろと紹介されている。

また、おそらく本書のもっとも中心的なメッセージのひとつは、フィクションや想像というのは非常に多様なものなので、一般化しようとしてもあまりうまくいかないのだというものだろう。本書では、いたるところで「それはジャンルによる」「作者の目的による」という指摘がなされている──この辺りもあまり哲学者っぽくないと言えば哲学者っぽくない議論の仕方だが、私は大いに共感するところが多かった。

どうやら、著者が「極端な意図主義」を強調するのは、それが「目的によって違う」「ジャンルによって違う」「ケースバイケースだ」ということをもっともうまく扱える立場だと考えているかららしい。

(3)想像とフィクションの結びつき

本書の基本的なフィクション観は、フィクションを、鑑賞者の想像によって規定するタイプのものだ。もちろんこれは著者の独創ではまったくなく、ケンダル・ウォルトンやグレゴリー・カリーといった過去のフィクションの哲学でも、よく見られた(主流と言ってもいいかもしれない)立場だ。しかし、Stockはこの伝統的立場をアップデートし、さまざまな批判に対して答えている点で、「想像概念を使ったフィクションの哲学」の最新版を確立していると言ってもよいだろう。個人的には、フレンドやマトラヴァーズといった論者の近年の批判にかっちり答えてくれた辺りは非常に参考になった。

目次と各章の内容

  1. 極端な意図主義と虚構内容
    • 本書の概略と基本概念の整理
  2. 解釈の意図主義的戦略
    • 虚構的真に関する議論。
    • ルイスやカリー説の批判。
    • フィクションの解釈には、自動的に適用できる方法は存在せず、基本的にジャンルとか作者の目的によって変わるという主張が擁護される。
  3. 極端な意図主義とそのライバルたち
    • 解釈と作者の意図を巡る議論。
    • 穏健な意図主義、仮説意図主義、最善価値説などのライバル説の批判。
  4. フィクション、信念、「想像的抵抗」
    • 前半では、「フィクションを通じて、現実の知識を伝えられるか」という問題が扱われる。
    • 後半では、いわゆる想像的抵抗の問題が論じられる。
  5. フィクションの本性
    • フィクションの定義が議論される。
  6. バック・トゥ・ザ・イマジネーション
    • 想像論を扱った章。
    • 想像の反実仮想の側面だけを強調する立場を批判しつつ、「想像は何でもあり」説も批判される。
    • 想像と仮定の区別なども議論される。