ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます(6) - 関連書の紹介

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ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます。発売日は2022年9月24日です。

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ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在にも書いています。

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ついに表紙画像が出ました。ごくまれにノイズの部分に人の顔が見えることがあり、顔を見てしまったら、最後まで読んで感想をネットにアップしないと大変なことになるという都市伝説があったりなかったりするらしいです。

関連書籍の紹介

今回は関連書籍の紹介をします。

戸田山和久『恐怖の哲学』では、II部で『ホラーの哲学』が扱われています。本書に登場する「ホラーのパラドックス」「フィクションのパラドックス」にも、それぞれ独自の仕方で取り組んでいます。最近改めて読み直していて、キャロルと戸田山はホラーの定義が違っており、関心もかなり異なる部分があるなと思ったんですが*1、いずれにしても『ホラーの哲学』をこんなに大々的に紹介している本は他にないので、『ホラーの哲学』に興味をもった人にはおすすめです。

キャロルとの違いは、『恐怖の哲学』の方が、感情の哲学を手厚く扱っており、近年の展開まで紹介されている点です。『ホラーの哲学』は感情の哲学部分がやや古かったり、導入が親切でない部分もあるので、本書が良い補完になるでしょう。

『感情の哲学入門講義』は講義形式の感情の哲学の入門書です。感情の哲学全般の親切丁寧な紹介になっている上、第12講では「ホラーのパラドックス」を一般化した「負の感情のパラドックス」が扱われていたり、第13講では「フィクションのパラドックス」が扱われているので、やはり『ホラーの哲学』の良い導入になるでしょう。

『ホラーは誘う』は去年翻訳が出た著作で、わたしも最近知ったんですが、ホラーに関する研究書です。「ホラーはさそう」ではなく「ホラーはいざなう」と読みます。著者は、デンマークの研究者で、進化心理学を取り入れた文学研究(進化論批評evolutionary criticism)の人らしいです。ホラーの魅力を進化心理学などの観点から説明しようというスタンスです。キャロルとはまたアプローチが違いますが、キャロル『ホラーの哲学』も要所要所で出てきます。

いずれにしても、ホラーを扱った学術研究はまだまだ貴重なので、『ホラーの哲学』と合わせて読むと良いのではないでしょうか。

本書に出てくるホラー作品の紹介コーナー

ジョン・カーペンター監督の『遊星からの物体X』(1982)を紹介します。リメイク元の『遊星よりの物体X』(1951)とともに、本書では何度か登場します。

キャロルはこの映画のようなジャンルを「小隊ものモンスター映画platoon monster film」などと呼んでいます。「小隊もの」は、軍隊などの小グループが、遭難などで孤立したところをモンスターに襲われるというジャンルらしいです。どれくらい一般的な言葉なのかはわかりませんが(むしろ、ほとんど使われてなさそうですが)言われれば確かにそのジャンルはありますね(『エイリアン』など)。

個人的には『エイリアン』一作目も本作もかなり好きなんですが、『エイリアン』の方は、あのエイリアンのデザインが有名になりすぎたことでだいぶ損をしていると思います。『エイリアン』一作目では、エイリアンの成体が本格的に登場するまでかなり引っ張っており、予備知識なしで「アレ」を見た人は相当な衝撃だったと思うんですが、残念ながら現在その衝撃を追体験するのは難しくなっています(これは『リング』などにも同じことが言えますが)。

一方、本作の宇宙生物は、そもそもあまり具体的な形がないせいもあってか、そんなにネタバレ感はないと思うんですね。むしろ、元ネタを明らかにしない形で、さまざまな後続作品に真似られているので、はじめて見たときは、過去見たさまざまな作品(『寄生獣』など)の謎が急に解けたような気持ちになりました。

余談ですが、SF作家のピーター・ワッツが物体X視点の短編(「遊星からの物体Xの回想」)を書いており、この辺りの作品を読むと、本作がいかに愛されているかということがよくわかります。

*1:やわらかく書くと、キャロルはオバケが出ないものはホラーではないと考えていて、戸田山はいわゆる「ヒトコワ」もホラーに含めている。また、戸田山はホラーそのものより、あくまで感情に興味があって、その題材としてホラーを選んでいるという違いも感じます。