ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます……出ました!

あれもこれも紹介したいと思っているうちに発売日をすぎてしまった。何も書かないのもあれだなと思ったので、せめてこれまで書いたエントリのまとめなどあげておきます。余裕があればまた紹介記事も投稿します。

また、『ホラーの哲学』の序が無料公開されました。購入を迷っている方はこちらも参考にどうぞ。

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紹介の補足

反応などを見ていて、訳者解説などでもっと強調しておけば良かったなーと思うこともいろいろあるので以下断片的に書いておきます。

  • 『ホラーの哲学』は基本的に超自然的ホラーだけをホラーに含めています。オバケ中心のホラー観です*1。これは当然文句がある人はいると思うんですが、個人的には、あまりどっちが正解という話ではないとも思っています。ひとつのジャンルには無数の隣接ジャンルがあって、隣接ジャンルのどこにジャンルの境界線を引くかというのは、もう何というか、取り決めの問題かなと思います(おそらくキャロルもそれは認めていて、邦訳p.88周辺でその話をしています)。少なくとも、「オバケが出てくる話」と「ヒトコワ」は、ホラーの中でもある程度別ジャンルというのは一応合意されていることかなと思うので、「確かに、いわゆる「ホラー」という用語にはヒトコワも含まれることがあるかもしれない。だが、本書で扱う(扱える)のは、超自然的ホラーだけです」と宣言してそれで終わりにしてもいいような話かなと思っています。この辺は戸田山『恐怖の哲学』も話がすれちがっていると思っていて、例えば戸田山は、キャロルが明示的にホラーではないとしている『ミザリー』を、なぜかキャロルに対する反例としてあげていたりします*2
  • ホラーというと映画のイメージが強い人も多いと思いますが、『ホラーの哲学』はかなりの部分ホラー小説を扱っています(もっと言えば、多分なるべく多くのメディアに触れようとしているので、ホラー演劇などについても随所で触れています)。そしてひょっとすると、ホラー映画好きの人よりも、ホラー小説をよく読む人の方が、本書に対する納得感は高いかもしれません。例えば、ホラーの中心に、モンスター/オバケを置くのも、ホラー小説だとそれほど違和感はないでしょうが、映画を念頭に置くと、スラッシャージャンルの扱いの薄さが不満かもしれません。もっと言えば、本書は、スティーヴン・キングが古典モンスターを次々復活させていくのを横目で見ながらそれと同時代に書かれているわけで、ゴシック小説からモダンホラーの流れを頭の片隅に置いておくと、腑に落ちるストーリーになっているかもしれません。

本書に出てこないホラー作品の紹介コーナー

番外篇として、本書には出てこないが、わたしが好きな怖い話を紹介します(毎回作品紹介を書くのが若干ハードルをあげているせいもある)。元の話を投稿している余寒さんは民俗系の怪談を得意としている方ですが、たまーにコズミックホラー系の怪談が出てくることがあって、それがめちゃくちゃ好きです。あと、これは異常論文怪談でもあるので異常論文好きの方もぜひ。

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*1:キャロルの元々の表現は「モンスター」なんですが、日本語には、超自然的なもの全般を包括できる「オバケ」という便利な単語があり、おそらく多くの日本人にとっては「モンスター」というより「オバケ」と表現した方が通じやすいのではないかと思うようになったので、最近「オバケ」を使うようにしています。

*2:キャロルが『ミザリー』をホラーから除外している箇所は邦訳p.286。戸田山がホラーに含めている箇所は『恐怖の哲学』p.328。