ポール・ケリー『リベラリズム』

リベラリズム: リベラルな平等主義を擁護して作者:ポール・ケリー新評論Amazon ポール・ケリー『リベラリズム』(佐藤正志, 山岡龍一, 隠岐理貴, 石川涼子, 田中将人, 森達也訳)を読んだ。 英語のKey Conceptシリーズの「リベラリズム」の巻の翻訳。 政治哲学…

カントの天才論

『判断力批判』の一部で、カントは「天才論」というかたちで芸術作品の創造について論じている。それは『判断力批判』全体のプロジェクトの中では、決してメインのテーマではないのだが、それなりにおもしろい主題となっている。 判断力批判作者:イマヌエル…

『メタゾアの心身問題』

メタゾアの心身問題――動物の生活と心の誕生作者:ピーター・ゴドフリー=スミスみすず書房Amazon ピーター・ゴドフリー=スミス『メタゾアの心身問題』塩﨑香織訳、2023年、みすず書房 『メタゾアの心身問題』を読んだ。前著『タコの心身問題』を楽しく読んだ…

ゲシュタルト知覚について

ゲシュタルト知覚またはアスペクト知覚について自分なりに説明してみる。なぜこの記事を書こうと思ったか。ゲシュタルト知覚の話は、別にそんな難しい話ではないはずなのだが、なぜかピンと気づらいものらしく、理解していない人が結構いるという印象をもっ…

Jonathan Gilmore, Apt Imaginings

Apt Imaginings: Feelings for Fictions and Other Creatures of the Mind (Thinking Art) (English Edition)作者:Gilmore, JonathanOxford University PressAmazon ジョナサン・ギルモアのApt Imaginingsを5章まで読んだので紹介する。本書はフィクションの…

初期分析美学における芸術創造論

ヴィンセント・トマスの"Creativity in art"および周辺の文献をちょっと調べたので備忘録的に残しておく。 Tomas, Vincent (1958). Creativity in art. Philosophical Review 67 (1):1-15. ヴィンセント・トマスのこの文献に関しては、少し前に出た村山正碩…

Jon Elster, Ulysses Unbound

Ulysses Unbound: Studies in Rationality, Precommitment, and Constraints (English Edition)作者:Elster, JonCambridge University PressAmazon ヤン・エルスター(『酸っぱい葡萄』*1の人)のUlysses Unboundという著作のIII部が芸術論らしく、ちょっと興…

Matthew Strohl「アートと苦痛を与える感情」

Strohl, Matthew (2018). Art and painful emotion. Philosophy Compass 14 (1):e12558. いわゆる「苦痛を与えるアートのパラドックス」に関するPhilosophy Compassのサーベイ論文を読んだ。サーベイなのでそれほど期待せずに読んだのだが、思ったより全然お…

当為についてさらに

前回エントリ 道徳的判断は程度を認めない0/1の判断なのか - うつし世はゆめ / 夜のゆめもゆめ Xで宣伝するのを止めてしまったら、いまひとつ反応がなくてつまらんなと思ったけど、なぜか逆説的にブログを書く気がわいてきた。 前回の記事は、「倫理学ではこ…

ロペス、ナナイ、リグル『なぜ美を気にかけるのか:感性的生活からの哲学入門』

なぜ美を気にかけるのか: 感性的生活からの哲学入門作者:ドミニク・マカイヴァー・ロペス,ベンス・ナナイ,ニック・リグル勁草書房Amazon 遅くなってしまったが、訳者の森さんから頂いた『なぜ美を気にかけるのか:感性的生活からの哲学入門』の感想を書いて…

道徳的判断は程度を認めない0/1の判断なのか

人と話していて、道徳的判断って、基本的には程度を認めない0/1の判断ですよね……と言ったら意外と理解されなかったので、もしかしてこれってあまり理解されていないことなのか?と思って、ブログ記事を書くことにした*1。基本的に、倫理学に詳しい人なら知っ…

R. Jay Wallace『モラル・ネクサス』

The Moral Nexus (Carl G. Hempel Lecture Series Book 9) (English Edition)作者:Wallace, R. JayPrinceton University PressAmazon Wallace, R. Jay (2019). The Moral Nexus. Princeton University Press. R・ジェイ・ウォレスの『モラル・ネクサス』とい…

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます……出ました!

あれもこれも紹介したいと思っているうちに発売日をすぎてしまった。何も書かないのもあれだなと思ったので、せめてこれまで書いたエントリのまとめなどあげておきます。余裕があればまた紹介記事も投稿します。 第一回: モンスターの作り方 第二回: 歴史的…

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます(6) - 関連書の紹介

第一回 第二回 第三回 第四回 第五回 ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます。発売日は2022年9月24日です。 filmart.co.jp ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在にも書いています。 www.seidosha.co.jp ついに表紙画像が出ました。ごくまれに…

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます(5) - ホラーの定義

第一回 第二回 第三回 第四回 ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます。 filmart.co.jp ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在にも書いています。 www.seidosha.co.jp 紹介 第一章のホラーの定義の箇所を紹介しようと思います。 ホラーの定義と…

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます(4)

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます。 filmart.co.jp ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在にも書いています。 www.seidosha.co.jp 第一回 第二回 第三回 紹介 - 「ホラー」の世代差 短かい小ネタを書いた方が読む方も書く方も楽でいいだ…

Jホラーと怪談収集小説

『ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在』が出たので、掲載した論考「Jホラーの何が心霊実話なのか?——実話怪談、ドキュメンタリー、心霊写真」の補遺的な話を書く。 ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在 ―伝播する映画の恐怖―作者:高橋洋,大島清昭…

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます(3)

第一回 第二回 ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます。 filmart.co.jp ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在にも書いています。 www.seidosha.co.jp 紹介 - ホラーの詩学 断片的にいくつか紹介してきましたが、『ホラーの哲学』を、トータル…

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます(2)

第一回 ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます(1) - うつし世はゆめ / 夜のゆめもゆめ ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます。 filmart.co.jp ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在にも書いています。 www.seidosha.co.jp 紹介 今…

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます(1)

まえおき ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の翻訳が出ます。出版社の告知ページも出たので宣伝していきます。 filmart.co.jp たまたまタイミングが合って、ユリイカ2022年9月号 特集=Jホラーの現在にも書いています。 www.seidosha.co.jp このふたつの仕…

今年のベスト的な

例年、新しいものはあまり読んでいないのだが、今年は比較的新しいものを読んだ気がする(小説限定)。 2021年に出たもので良かったもの 6600万年の革命 (創元SF文庫)作者:ピーター・ワッツ東京創元社Amazon 爆弾魔: 続・新アラビア夜話作者:R・L・ステ…

『アーカイブ騎士団012 幽霊屋敷小説集』(第三十三回文学フリマ東京)

第三十三回文学フリマ東京に参加します。去年11月の文学フリマでは製本が間に合わずパイロット版としてコピー誌を出しましたが、そこにさらに何編かを追加した増補改訂版の『幽霊屋敷小説集』が出ます。 『幽霊屋敷小説集』表紙 項目 内容 開催日 2021年11月…

Greg Frost-Arnold「「分析哲学」の興隆: いつ、どのようにして人々は自らを「分析哲学者」と呼ぶようになったのか

Frost-Arnold, Greg (2017). The Rise of ‘Analytic Philosophy’: When and How Did People Begin Calling Themselves ‘Analytic Philosophers’? In Sandra Lapointe & Christopher Pincock (eds.), Innovations in the History of Analytical Philosophy. P…

フィクションの哲学のニューウェイブ: エイベルの『Fiction: A Philosophical Analysis』

Fiction: A Philosophical Analysis (English Edition)作者:Abell, Catharine発売日: 2020/06/10メディア: Kindle版 まえおき: フィクションの哲学の現状 最近出版されたキャサリン・エイベルのFiction: A Philosophical Analysisという著作を紹介したいのだ…

機械学習と理解は対立するか

(この記事は書きかけでしばらく放置していたのだが、何となく機運が高まったので、公開することにした) 理解とディープラーニングの対立? 現在は第三次AIブームということで、毎日のように、AIやディープラーニングに関連するニュースを耳にする──これはまあ…

SFマガジン2020年6月号

SFマガジン 2020年 06 月号発売日: 2020/05/25メディア: 雑誌 SFマガジン2020年6月号に掲載されていた短篇群がどれも良かった。 「英語圏の最近のSF短篇が載ってるのかー。紹介見るとおもしろそうな作品が多いので読むかなー」くらいの気持ちで読みはじめた…

「神経科学に触発された人工知能」

仕事の関係もあって、人工知能・ディープラーニングに関連する論文は結構読んでいるのだが、たまにはこのブログでも紹介しようかなと思ったので紹介することにする。と言っても、あまりに専門的なものはわかりやすく紹介できる自信がなかったので、比較的マ…

『失われた時を求めて』を読み終わった

ついに『失われた時を求めて』の最終巻である14巻を読み終わった。記録によると、2019年4月1日に1巻を読み終わっているので、およそ1年ちょっとの間、読みつづけていたらしい。ちなみに前半は光文社古典新訳文庫、後半は岩波文庫で読んだ(光文社版はまだ6巻…

『判断力批判』の謎

カントの『判断力批判』という本は主にふたつの事柄について論じている。美的判断と、自然に関する目的論的判断についてだ。 だが、ここには大きな謎がふたつある。 なぜ、『判断力批判』というタイトルの本で、判断一般についてではなく、このふたつの事柄…

Mark Windsor「不安な話」

Windsor, Mark (2019). Tales of Dread. Estetika 56 (1):65-86. 「テイルズ・オブ・ドレッド(不安な話)」(Tales of Dread)は、ジャンル名なのだが、英語でも特にジャンル名として定着しているわけではない。元はと言えば、ノエル・キャロルが『ホラーの哲学…